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2010.02.21 神戸新聞:書評「京都の空間遺産」


2010年02月21日(日) 神戸新聞

拙著「京都の空間遺産~社寺に隠された野望のかたち、夢のあと」を紹介した新聞書評

生存への夢託す絶対性 人と宇宙の立体ドラマ

神戸人にとって京都はあこがれです。都に対する人々の重いが共有され、誇りが醸成されています。歴史文化の継続性がゆるぎなく保たれているのがうらやましく、わが街もこのようでありたいと願うからでしょう。
歴史文化への理解や愛着を深め、さらなる精神的満足を得たいと思っている方にはこの本の一読をお勧めします。京都の魅力を、金閣寺などの八つの社寺建築の 空間美を立体的に解析しながら、時空を超えた宇宙と人間の情念を描き出す、見たこともない立体映像ドラマを体験できるからです。
例えば東寺のくだりでは、屋根の稜線が空に聖線を発し、精気を都の中空へ勢いよく放っていく。二元の世界から四次元の宇宙を創り出す壮大なパノラマ。張り詰めた躍動感に感動します。
平安時代より、均衡が壊れ、調和を乱すところに「儚さ」「うつろい」というそれまでにはない新しい美意識が生まれました。それを強烈に明示していく愛着の 概念が、日本の美の文化を創ったと定義しつつ、日本人の「わ」の美の本性がどのようにして、創る行為の中に織り込まれていったかを、まるで夢の世界をのぞ き見るように発想豊かな文体でつづられています。
「日本の美とは、ありのままの自然をつくることでもない、あるべき自然をつくることでもない、あるべきように自然をつくることでもない。『“あるべきやうわ”は何か』を問える自然をつくることである」
「侘びも寂びも無常観とは無縁でない。しかし、うつろいは時ではない。光も色も形も姿も、ひと時の映りを写し、移されていく虚ろなもの。その“うつろさ”にこそ生の息吹を見定め、とらえる技芸に仕立てたのである。その『しつらい』が開花した時、『うつろい』は開花する」
造形する者にとって大事なことも示唆しています。異なるものの「合わせ」「揃え」「見立て」の妙技で二つとない世界をつくること、新たな概念が至極を照明するだけの絶対空間で現れるまでがんばること。これがまさに生成の源であると。
日本の多元的芸術文化を発信する神戸ビエンナーレのディレクターを務め、学者であり、建築家でもある著者からの檄文です。
つまり、この本は建築に携わる者、芸術に携わる者、みんなが生存の夢を託す絶対のかたちを目指して大いに心せよという、厳かな“燃え”の本でもあります。出会ったことに感謝です。
建築家 瀬戸本 淳