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2016.10.20 雑誌記事:デザインや空間表現の秘密を解き明かしたい 大森正夫(神戸佳族 vol.63)


神戸佳族 vol.63  (2016.11-12月号)雑誌記事

 INTERVIEW 神戸・創造人の肖像

デザインや空間表現の秘密を解き明かしたい 大森正夫

 

「意匠学会作品賞」を授与された羽裏についてのインタビュー記事が掲載されました。

EPSON MFP image

デザインや空間表現の秘密を解き明かしたい

大森正夫

EPSON MFP image 今年7月、日本の伝統的な芸術文化やデザイン、空間表現について研究する建築家の大森正夫さんが、デザインの研究者らが集う意匠学会の第58回大会にて「意匠学会作品賞」を授与された。

銀閣2層からの観月の場面を和歌に詠み、その心象風景を着物の上にまとう羽織の裏地の羽裏にデザインしたもので、物語への斬新な解釈と先進技術を駆使した伝統意匠の再考などに評価の声が上がった。

作品は、自身が長年取り組んでいる京都・東山文化に関する研究の一環である。制作した2015年は、安土桃山時代後期の京都に興った美術流派・琳派誕生400年目に当たり、琳派の造形理念をあらためて考察しようと、琳派の影響を最も受けたとされる着物に注目。特に美意識が強く表れた羽裏に焦点を当て、〝現代の琳派羽裏〟を表現することを考えた。「表でなく、脱ぐ際に初めて他人に見える羽裏に豪華な絵柄を忍ばせるところに、見えない場所に凝る日本人の『粋(すい)の美』を感じた」のも羽裏に着目した理由の一つと話す。

とりわけ評価が高かったのが、和歌を詠み、その心象風景を視覚化する手法を試みた点だ。今なお日本のデザイン界に影響を与える琳派は平安時代の大和絵が基盤で、その大和絵は平安文化全体に通底する和歌との関わりが深い。そこで「デザインの仕事に関わる以上、歌が詠めなければ」との持論から、季節と心情を詠む和歌を作品の土台とした。歌のテーマは、今日の日本人の美意識に東山文化が大きく影響したことから、東山文化の拠点施設である銀閣寺での「十三夜の観月」がふさわしいと考えた。

実際のデザインは、背で縫い合わせる羽裏の作りを生かし、円と格子を使ったダイナミックシンメトリーで表現。観月後、格子戸を閉めた後に残像として見える心象風景を満開の桜に例え、格子部分に花びらをあしらった。「大胆なトリミングやパターン化、省略・抽象化、たらしこみ、俯瞰視、時間の推移、二曲一双など、琳派の描法や構成の手法を随所に取り入れています」と大森さん。さらに、着物の制作にデジタル染色を取り入れるなど、新たな染色技術と現代の琳派羽裏の表現が融合した一作となった。

大学院卒業後に勤めた建築事務所で国家的プロジェクトに携わったのを機に「もっと日本の建築手法や空間設計、芸術文化について学ぶ必要がある」と研究し続けて約30年。大学院で教壇に立ちながら、数多くの学会や団体に所属し、多方面からアプローチを進めてきた。その傍ら、ライフワークとして京都の魅力を社寺などの空間美からひもとき、3冊の本にまとめてきた。現在注目しているのが「道」で、街道や参道にはどんな意味があり、造った人はどのような世界観を持っていたかを見つけ出したいと考えている。こうした探究心を支えるのは「本当の日本の姿を伝えたい」という思いだ。

「日本には明らかになってないデザインや空間表現の秘密がたくさんあります。それらは見事に手つかずのままで、真意を知る人は誰もいない。ならば私が研究するしかありません」と大森さん。使命感を胸に、日々調査を進めている。